・ <集めて分ける 社会保障と税・格差編> 相続税 見直しなるか
報道によると、 多額の遺産を受け継ぐ遺族に課せられ、経済格差縮小の効果が期待される相続税。近年は、税収が減り続け、政府・与党が昨年の国会に提出した増税案も成立に至らなかった。増税案は、今月6日に決定した「社会保障と税の一体改革」の素案に盛り込まれたものの、実態は民主、自民、公明3党の密室協議による先送りだ。 (白井康彦)
「相続税の課税対象者を増やしていこう」。二〇一〇年十月に開かれた政府税制調査会・専門家委員会の会合で委員の学者らの意見が一致した。財務省はその場に、相続税の税収の推移を示す資料も提出。ピークの一九九三年の約二兆九千四百億円から、〇九年の約一兆三千五百億円までほぼ一貫して減っている。
相続税は、遺産額が基礎控除額を超えなければ、納める必要はない。基礎控除額が課税対象かどうかを決める最低ライン。バブル崩壊後のデフレで地価が下がる一方、基礎控除額は九四年から据え置かれ、課税対象者は減り続けてきた。死亡した人に対する相続税対象者の割合は八七年は7・9%。〇九年には4・1%まで下がっている。
消費者団体や反貧困ネットワークなどは、富裕層が主な対象の相続税に、貧困層との格差是正の効果を期待する。このときの専門家会合では「相続税の課税による格差是正の効果が弱まっている」という財務省の資料も出された。
こうした議論も受け、昨年の国会に提出された二〇一一年度税制改正法案には、相続税の増税案も盛り込まれた。最大の柱は基礎控除額の四割引き下げ=図。法定相続人が死亡者の妻と子二人のケースでは、従来、八千万円だった基礎控除額が改正後は四千八百万円に下がる。影響は大きく、東京都内の一戸建てに住んでいる人などが相続税の心配を始めた。
相続税は、遺産の課税価格が高いほど税率が高くなる累進税率。増税案では、最高税率を50%から55%に引き上げる内容も含む。〇三年に70%から50%に引き下げられた経緯から、消費者団体などは「70%に戻すべきだ」と、最高税率の上乗せを求めている。
◆実態は密室協議で先送り
相続税増税案は昨年の国会で自民党の反対姿勢が強い中、三党協議で調整して先送りされた。民主党は、増税案を一二年度の税制改正にも含めず、基本的に同じ案を一体改革素案に盛り込んだ。
昨年の国会で順調に成立していれば、増税案は昨年四月に施行される予定だった。一体改革案では、成立したとしても、施行が一五年一月。三年九カ月も遅れ、政治情勢次第では実現しない可能性さえある。
消費税増税を含む抜本的な税制改正を目指す動きは自公政権の〇八~〇九年にもあり、相続税の増税も検討課題に上げられていた。こうした経緯を踏まえ、三党協議では明確な決着を避け、一体改革での検討という、民主、自公とも歩み寄りやすい曖昧なかたちで先送りしたようだ。
三党協議は、議事録がない密室協議。相続税増税案には、「最高税率をどうするか」など、さまざまな論点があるのに、昨年の国会では、公開の委員会や本会議ではほとんど審議されず、経緯は外部にほとんど伝わっていない。
「相続税の増税で課税対象者が増える。対策を考えましょう」-。昨年は相続税対策のセミナーが全国各地で開かれ、雑誌記事や単行本の発行も目立ったが、肩すかし。アドバイスする側の税理士らも「先送りの経緯は分からない」と口をそろえる。消費者団体などは「密室協議で税制の重要な点を決めるのはおかしい」と批判している。

